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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)739号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

検察官佐藤豁の上告事件受理申立の理由について。

本件「テボー」(手芒ともいう)は、所謂雜穀中の荳科に属する「いんげん」「うづら」「菜豆」等の名称で呼ばれるものの内の一つであって、昭和二二年五月一日農林省告示第五八号により「菜豆」の名で食糧管理法上の主要食糧としての雜穀に指定されたものであることは、原判決の説示するとおりである。そして、右告示第五八号には「一、食糧管理法施行規則第一条ノ五の農林大臣の指定する雜穀、(一)大豆、小豆、豌豆、菜豆、蚕豆、工豆、緑豆、蕎麦、燕麦、粟、稗、黍、玉蜀黍及び蜀黍」と規定されていたが、同年十二月三〇日農林省告示第一九六号を以てこれを改正するに当り前の告示中の漢字をなるべく平仮名書に改める際右告示中の「菜豆」を「いんげん」とすべきを誤りて植物学上の系統的分類を異にする「なたまめ」と誤記し、その誤記の侭官報に掲載せられ、後日その誤記を発見し昭和二三年四月七日附官報正誤欄に農林事務官の名義で、昭和二二年一二月三〇日農林省告示第一九六号中六の(中略)四行目「なたまめ」は「いんげん」(中略)の誤りと正誤掲載されたものであることは、食糧庁総務部長の回答書に徴し且つ前記昭和二二年農林省告示第五八号と同年同省告示第一九六号とを対比し既に主要食糧に指定された「菜豆」を削除して新らたに「なたまめ」を指定する実質的理由のないことに鑑みてこれを認定するに充分である。そして、官報に公示するがごとき公示手続上の過誤は、農林事務官においてこれが正誤の手続を執ることは当然その権限内にあるものと解するを相当とするから、前示正誤は正当であって、少くとも官報正誤の日以後における本件「テボー」の輸送委託をした行為にはその正誤された告示が適用されるものといわなければならない。されば、本論旨はその理由があって、原判決は破棄を免れない。

よって刑訴四一三条本文一八一条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 岩松三郎)

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